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自賠責保険の請求手続きについて説明いたします。
1.①「交通事故解決の流れ」で説明したよ
うに、事故の被害者となった場合、相手側 の任意保険会社を信頼して全て任せてしま うというのが一つの方法です。
(任意一括払い)
② 傷害の程度も軽く、数ヶ月以内の治療ですっかり良くなった、保険会社 の対応もよく、治療費他交通費・慰謝料なども計算が簡単で通院日数からみ て妥当な金額を提示されたような場合は、被害者請求のように自分で書類を そろえて面倒な手続きを行わずに、納得して解決するということです。
③ 後遺障害が残った場合は、安易に相手側保険会社の提示を受諾するのは 得策ではありません。
2.① もう一つの方法が、自賠責保険の被害者請求という制度を利用するも のです。
(被害者請求)
② 自分で書類をそろえて請求するので手間はかかりますが、診療報酬明細 書などを自分で精査して納得のいく金額を把握できるというメリットがあり ます。
③ 自賠責保険に被害者請求をすると、自動的に任意一括は解除されます。
④ 被害者請求には示談成立は考慮されないため、示談後に被害者請求する ことは可能です。
⑤ 被害者請求を行う理由
・自賠責保険の支払う保険金をすぐに受け取ることができる
・後遺障害認定に要する時間を短縮できる
・後遺障害認定に対する任意保険会社の対応を排除することができる
⑥ 被害者請求の時効
・傷害は事故日の翌日から、後遺障害は症状固定時の翌日から、死亡の場合 は死亡日の翌日から、それぞれ2年です。
・任意一括を解除したときは、そのときから時効が進行します。
・なお、平成22年4月1日以降発生の事故については、法令改正により保険 金等の請求権の時効は、2年から3年に変更されています。
・時効を中断させるために、自賠責保険については、保険会社に「時効中断 申請書」を提出することができます。
・示談に際して、相手側保険会社が示談金額の提示を行った場合は、「債務 の承認」となるので、時効は最終の提示日から進行することになります。
・なお、「後遺障害等級異議申請」は、時効中断が認められていないので、 注意が必要です。
任意保険会社にではなく、自賠責保険会社
に直接請求する場合の流れは以下のとおり
です。
1.被害者請求書類をそろえる
・まず、加害者が加入している自賠責保険会社に対し、必要書類を請求しま
す。
2.保険金・損害賠償金の請求書類を提出する。
・自賠責保険会社に対し、必要書類をつけて損害賠償金または保険金を請求
します。
・未成年者の場合は、親権者が請求します。
(請求に必要な書類)
① 保険金・損害賠償額支払請求書・事故発生状況報告書
② 交通事故証明書
③ 医師の診断書
④ 診療報酬明細書 (レセプト)
⑤ 通院交通費明細書
⑥ 付添看護料領収書・自認書
⑦ 休業損害証明書あるいは納税証明書
⑧ レントゲン写真等
⑨ 後遺障害診断書
⑩ 印鑑証明書
⑪ 戸籍謄本
⑫ 委任状
3.自賠責保険会社による事務手続き
・自賠責保険会社は、提出された書類に不備がないかを確認した上で、損害
保険料率算出機構の一機関である自賠責損害調査事務所に送付します。
4.自賠責損害調査事務所による調査
・自賠責損害調査事務所で、加害者の賠償責任の有無や発生した損害の額な
どを、公正・中立な立場で調査します。
① 事故発生状況報告書の確認・事故調査
② 当事者に事故状況を照会
③ 有責・無責の判断
④ 医療機関に対し医療調査
⑤ 後遺症についての本人照会
⑥ 後遺障害等級認定
⑦ 損害額の決定
5.調査結果を自賠責保険会社に報告
・自賠責保険調査事務所は、調査した結果を自賠責保険会社に報告します。
6.保険会社による支払額の決定と支払い
・自賠責保険会社は、自賠責損害調査事務所の報告を受けて支払額を決定
し、請求者である被害者に支払います。
自賠責保険の保険金等は、迅速かつ公平
に保険金等を支払うため、国土交通大臣お よび内閣総理大臣により「支払基準」が定 められています。
損害の範囲 | 支払限度額(被害者1名当たり) | |
傷害による侵害 | 治療関係費、休業損害 慰謝料、文書料 | 最高120万円 |
後遺障害による損害 | 逸失利益(後遺障害がなければ得られたはずの収入)、 慰謝料等 | 後遺障害の程度により 第1級:最高3,000万円~ 第14級:最高75万円 神経系統・精神・胸腹部臓器に著しい障害を遺して介護が必要な場合 常時介護のとき:最高4,000万円 随時介護のとき:最高3,000万円 |
死亡による損害 | 葬儀費用 逸失利益(生きていれば得られたはずの収入)、 慰謝料(本人および遺族) | 最高3,000万円 |
死亡するまでの 障害による損害 | 傷害による損害の場合と同じ | 最高120万円 |
傷害事故の場合の補償基準 (限度額 120万円)
補償内容 | 支払い基準 | |
治療費 | 診察料・投薬料・手術料・入院費等の費用 | 必要かつ妥当な額 |
柔道整復等の費用 | 柔道整復師・あんま・マッサージ・指圧・はり・きゅう師が行う施術費用 | 必要かつ妥当な額 |
看護費 | 入院中の看護料 (12歳以下の子供に近親者が付き添った 場合) | 1日につき4,100円 |
自宅看護料または通院看護料 (医師が看護の必要性を認めた場合) | 必要かつ妥当な額 近親者の場合、 1日につき2,050円 | |
通院交通費 | 通院に要した交通費 | 必要かつ妥当な額 |
諸雑費 | 入院中の諸雑費 | 入院1日につき1,100円 |
義肢等の費用 | 義肢・歯科補綴・義眼・眼鏡・補聴器・ 松葉杖などの費用 | 医師が認めた必要かつ妥当な額 眼鏡費用は50,000円が限度 |
診断書等の費用 | 診断書・診療報酬明細書などの費用 | 必要かつ妥当な額 |
文書料 | 交通事故証明書・印鑑証明書などの費用 | 必要かつ妥当な額 |
休業損害 | 事故による障害で発生した収入の減少 (家事従事者については、休業による収入の減少があったものとみなします) | 1日につき5,700円~ 19,000円 |
慰謝料 | 精神的・肉体的苦痛に対する補償 (妊婦が胎児を死産又は流産した場合は、 上記のほかに慰謝料を認める) | 入通院1日につき4,200円 (*「実治療日数×2」と 「治療期間」のどちらか少ない方で計算) |
1.この「自賠責基準」は、保険会社が支払う総合計額(治療費・通院費・
休業損害・入通院慰謝料など)が120万円を超えない場合に限り適用され ます。
2.総支給額が120万円を超える場合は、保険会社は、任意保険基準に基づ
いて算定します。
3.任意保険の慰謝料の計算は、詳細な「慰謝料計算表」が作成されてお
り、これには、任意保険基準と裁判基準があります。
4.自賠責にしても任意保険にしても、入通院の実治療日数と治療期間が重
要な要素になり、月平均の通院日数が少なければ減額されることもありま す。
死亡事故の場合の補償基準 (限度額 3,000万円)
補償内容 | 支払い基準 | |
葬儀費 | 通夜から初七日までの法要費用 祭壇料・火葬埋葬料 墓石・仏壇の購入費 (墓地購入費・永代供養料・香典返しなどは除く) | 60万円 (ただし、60万円を超える場合は、「社会通念上必要かつ妥当」な範囲で認定され、最高100万円まで支払われる) |
逸失利益 | その人が生きていたら、得られたであろう所得 | (年間収入額-年間生活費)×就労可能年数のライプニッツ係数 |
慰謝料(本人) | 被害者本人の慰謝料 | 350万円 |
慰謝料(遺族) | 被害者の父母(養父母含む)・配偶者および子(養子・認知した子・胎児を含む)が請求権者となる | 1名:550万円 2名:650万円 3名以上:750万円 |
死亡に至るまでの障害 | 傷害による場合と同じ |
1.死亡事故の場合は、負傷あるいは後遺障
害のある事故とはかなり状況が異なってき ます。
2.まず、被害者本人が死亡しているわけで
すから、死亡者の相続人が損害賠償を請求 することになります。
① 相続人の範囲・順位は、民法で規定されています。
妻は常に相続人となり、子供・父母・兄弟の順に相続人の順位が決めら れています。
② 注意しなければならないのは、慰謝料については、相続人になれない父 母にも固有の慰謝料請求権があることです。 (民法711条)
3.自賠責保険の被害者請求については、なるべく早く請求して当面の費用を
受取り、その後加害者に損害賠償を請求し、慎重に示談交渉をすることが負 傷の場合と異なるところです。
① 死亡までの入院治療費は計算が明確ですし、葬儀費用も妥当な額を請求 すれば、早い時期に自賠責保険会社から支払われます。
② 被害者請求をする場合、加害者側の同意は必要ありません。
③ この治療費・葬儀費用部分の請求は、素人の個人でも簡単に行えます。
4.死亡事故のような重大事故の損害賠償の示談交渉は、必ず交通事故専門の
弁護士に依頼すべきです。
① 交渉の相手は、専門知識のある保険会社ですから、知識のない一般の人 では太刀打ちできません。
② 特に、逸失利益・死亡慰謝料の算定方法、過失相殺の主張は、経験豊富 な弁護士でないと、正当な基準を示すことが困難です。
③ 弁護士であれば、交渉が不調に終わった場合の裁判も視野に入れて、強 気に動いてくれるはずです。
④ 弁護士報酬はかなりかかりますが、もし「弁護士費用特約」を付けてい れば、300万円まで自己負担は不要となります。